マチポンブログ

言葉は生き物ではなく、単なる道具だと思う。

2021/4/4の西日本新聞の内容に関する問い合わせ

2021/4/4付けで西日本新聞のウェブ版に以下のような記事が出ました。
www.nishinippon.co.jp
タイトルは「とめ、はねで1年生に0点 先生、厳しすぎませんか?」で、漢字の採点についての意見をまとめたものです。
Twitterのトレンドに入るほど話題になっていた記事です。

そこに掲載された「文部科学省教育課程課」の見解とされるものが、これまで文部科学省文化庁が言ってきた「緩やかな基準でよい」という内容と対立するようなものでした。
これは、教育者、研究者、また書道をする者として到底受け入れがたい見解でしたので、下記の内容で文部科学省文化庁両方に問い合わせを送りました。(4月5日23時ごろ)
まずはその問い合わせ内容からお読みください。

(タイトル:2021/4/4の西日本新聞の内容に関する問い合わせ)
【概要】
西日本新聞の記事における文科省教育課程課の見解とされるものは、文化庁指針と対立する内容とも取れ、混乱をきたすものと考えられます。
記事の見解が文科省の公式見解であるかなどについて、詳しい説明を求めます。


【内容】
2021/4/4の西日本新聞「とめ、はねで1年生に0点 先生、厳しすぎませんか?」〈https://www.nishinippon.co.jp/item/n/718030/〉で、以下のような説明がなされている。
>文部科学省教育課程課の見解は異なる。「国語ではなく、社会や理科など他教科で書いた字は『とめ、はね、はらい』ができていないからといって、減点はしないという柔軟な評価を意味する」と説明する。
>学習指導要領には「漢字の指導においては、学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とする」とあり、漢字テストや書写では配当表通りの「とめ、はね、はらい」が求められるという。


これは文化庁の出した『常用漢字表の字体・字形に関する指針』の「骨組みが同じであれば誤りとしない」という内容や、同指針Q26で示されている「柔軟に評価する」という内容と対立するものと考えられる。


記事では「国語科の漢字テストは「柔軟な評価」の対象ではない」というような内容が書かれているが、指針ではQ26で漢字の書き取りテストについても「柔軟な評価が行われることが期待されています」とあり、国語科の指導においても「柔軟な評価」を求めていると解釈できる。
また、『小学校学習指導要領解説 国語編』には、指針を引用した上で、「児童の書く文字を評価する場合には,(略)正しい字体であることを前提とした上で,柔軟に評価することが望ましい。」と書かれている。
これは、指針について述べた上での記述であるから、指導要領解説の説明は国語科の漢字の書き取りテストも含んでいると考えるのが妥当である。そもそも、国語編の内容なので、国語科の内容と考えられる。
したがって、教育課程課の見解は『同指針』とも『同指導要領解説』の内容とも異なるものであり、混乱を招くものと考えられる。


本件について、指針と異なる見解が掲載された経緯や、掲載された内容が正しいものであるのか、文部科学省としての見解なのかなど、詳細な説明を求める。
(同一の内容を文部科学省文化庁ともに送っています)

文部科学省送信先御意見・お問合せ 入力フォーム:文部科学省
文化庁送信先https://inquiry.bunka.go.jp/InputForm.aspx

問い合わせ内容の補足

簡単に説明しておきます。
文部科学省の外局である文化庁は、『常用漢字表の字体・字形に関する指針』を出し、漢字は細部にこだわらず柔軟に評価することが望まれると述べています。
「細部にこだわらなくていい」ということは、最近言われ始めたことではなく文部省時代から60年以上にわたって述べられていたことです。
このことは過去のブログ記事でもまとめています。
shokaki.hatenablog.jp

しかし、西日本新聞に掲載された文部科学省教育課程課の見解には「漢字テストや書写では配当表通りの「とめ、はね、はらい」が求められる」と書かれており、これにそぐわないものとなっています。しかも、「国語ではなく、社会や理科など他教科で書いた字は『とめ、はね、はらい』ができていないからといって、減点はしないという柔軟な評価を意味する」と、『小学校学習指導要領解説 国語編』の内容が「国語の漢字テストは対象でない」と言ってのけているわけです。
これは、にわかには肯定しがたい見解です。これまでの文部科学省文化庁の見解と異なることに加え、『小学校学習指導要領解説 国語編』に書かれた内容が国語を対象としていない可能性があるというわけです。

トメ・ハネを漢字テストで問うても字は綺麗にならない

また、今回の記事では小学1年生の話題として取り上げられていました。
低学年では厳しく採点すべきという声も多いですが、トメ・ハネ・ハライを追求しても、字は美しくなりません。

「上段の2つの「文字」が正しいから美しい。」のでしょうか。

西日本新聞の記事内にも同じような話が出てきますが、子供はペンに慣れていないのです。子供はまだペンや鉛筆で文字を書きはじめてからそれほど時間が経っていないので、ペンという道具には慣れておらず、うまく書けないのです。
これは、字を間違って書いていることとは全く質が異なります。正しいと思って書いた字を直されて学習意欲を削ぐよりも、出来ていることを評価すべきです。漢字を嫌いにさせるよりはいいはずです。
このことについても、第二段として過去のブログ記事にまとめています。
shokaki.hatenablog.jp

最後に

確かに、美しい筆法を身に付ければ、字は美しくなると思います。しかし、そんな筆法は漢字テストで問うことなのでしょうか。
美しい字を書かせたいのなら、たっぷり時間を取って書写をきちんとやるべきです。しっかり、筆法としてトメ・ハネ・ハライを教えるべきです。
そして、たくさんの手本を見て字を書き、漢字の歴史を学べば、漢字にはいろいろな書き方があることが学べるでしょう。(とめる部分をはねるたりする書き方があることは、中学国語や書写の教科書にも書かれています)

まともに書写ができるなら、こんなことにはならないでしょう。
まともに書写を指導できる教師がどれほどいるのでしょうか……。