マチポンブログ

言葉は生き物ではなく、単なる道具だと思う。

「にぎたえ」の漢字は「繪服(絵服)」か「繒服」か

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ネットで「にぎたえ」と検索すると、複数の表記が見つかるが、上の画像のように似た字が混在している。いったいどっちだ。

なんで旧字なのか

大嘗祭に関するニュースを見ていたら、「繪服(にぎたえ)」(画像:上)という字幕が出てきた。

おかしい。「繪」という字は「絵」の旧字体である。一般名詞が旧字体でテレビに登場することはほとんどない。何らかのミスがあるのでは?と疑った。

そこで、Googleで検索すると、「服(絵服)(画像:上)*1」と書かれたページと、「服(画像:下)*2」と書かれたページが出てきた。怪しくなってきた。

服」(絵の旧字)と書かれているページ

www.kokugakuin.ac.jp

阿波(徳島県)の麻織物「麁服(あらたえ)」と三河(愛知県)の絹織物「繪服(にぎたえ)」などの地方産品もある。

 

www.jiji.com

皇室の重要儀式「大嘗祭」で供えられる調度品「繪服(にぎたえ)」の出発式で行われた神事。

「絵服」と書かれているページ

www.asahi.com

麁服は神に献上する衣服の一つで、麻を織った反物。大嘗祭では、絹織物の「絵服(にぎたえ)」と合わせて神座に置かれる。

服」(旁が曽の旧字)と書かれているページ

mainichi.jp

寝座の足元には靴や徳島県産の麻織物「麁服(あらたえ)」と愛知県産の絹織物「繒服(にぎたえ)」を置く。*3

 

www.jinjahoncho.or.jp

繒服(にぎたえ)・麁服(あらたえ)

もしかすると、新聞は、紙面とウェブ版で字が異なる、みたいなことが起きているのかもしれない。知っている人がいたら教えてください。

「にぎたえ」とは?

さて、国語辞典で「にぎたえ」を引いたらなにかわかるかもしれない。引いてみよう。

にき‐たえ 〔‐たへ〕 【▽和▽妙/▽和×栲】
《後世は「にぎたえ」とも》織り目の細かい布の総称。また、打って柔らかくしてさらした布。にこたえ。→荒妙(あらたえ)*4

にき‐たえ[‥たへ] 【和妙・和栲】

〔名〕(後世は「にぎたえ」とも)

織り目の細かい布の総称。また、打って柔らかくしてさらした布。にこたえ。荒妙(あらたえ)。*5

おんなじやんけ。

まあまあ、なるほど。新聞記事の記述と合わせると、絹織物で、織り目の細かい布らしい。あと、「にこたえ」とか「にごたえ」とも言うらしい。

漢字は「和妙・和栲」と書いてあり、「」や「」は出てこない。

漢字の意味

では、「(絵)」「」のそれぞれの漢字の意味を見てみたい。

」は「絵」の旧字体なので、「絵」と同義である。

【絵】

〔一〕(名)①彩りの美しい刺繍。②絵画。

〔ニ〕(動)①顔料を用いて絵画を描く。えが‐く・ヱガ‐ク。②{近}声や姿などを模写する。なぞらえる。

【繒】

〔一〕(名)①絹織物の総称。きぬ。*6

「絵」は刺繍を意味するらしいが、「にぎたえ」はたんなる布で、刺繍は施さないようだ。

絹織物だということからすると、」が適切ではないか?

大漢和辞典

大体「」が適切そうだと見当がついたので、『大漢和辞典』で「」を引いてみることにした。

すると熟語に……

】ソウフク

(一)きぬの服。絹の小袖の類。

(二)ニギタヘ 細かく柔かに織つた栲。又打つて柔かにした栲ともいひ、染色せず、つやのない普通の絹ともいふ。和𣑥。荒服の対。*7

服」じゃん?

過去の文献

過去の文献ではどうかかれていたのだろうか。

日本国語大辞典』第二版の用例を見てみると、『北山抄』に「服」が現れるらしかった。

ネットで見られる『北山抄』を見てみよう。(画像は権利の関係で一部省略)

  • 早稲田大古典籍総合データベース『北山抄』

服(ニキ(ゴ)タヘ)

〈5の28カット目左〉

北山抄. 巻第1-10 / 公任 [撰]

 

f:id:shokaki:20191115134807j:plain*8
〈291カット目左〉

北山抄 | 日本古典籍データセット

 

  • 国立国会デジタルコレクション『丹鶴叢書』内の『北山抄』

服(ニキタヘ)

〈107コマ目左上〉

丹鶴叢書. 故実 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

」の旁「曾」は、「曽」と書くのが一般的だった。*9

つまり、上記3つの文献では「」と書かれている。

」やん?

過去の新聞

昔の人は漢字に強い。そう思うのだ。

漢字が簡略化される前、大正時代の大嘗祭の新聞記事ではどう書いてあるのだろうか。

朝日新聞記事データベース「聞蔵Ⅱ」と、読売新聞記事データベース「ヨミダス歴史館」で検索することにした。

朝日新聞記事データベース 聞蔵II

ヨミダス歴史館 : データベース : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

「にぎたえ」並びに同時に出てくるであろう「麁服」で検索した。「」は文字コードの関係上、引っかからなかったりする。

得られた記事は以下の通り。

  • 朝日新聞』1915年7月29日朝刊(東京)5ページ

    f:id:shokaki:20191114005512p:plain

  • 朝日新聞』1915年11月15日朝刊(東京)2ページ

    f:id:shokaki:20191114005324p:plain

  • 『読売新聞』1915年12月18日朝刊5ページ
    f:id:shokaki:20191114005000p:plain

まとめ

にぎたえ

はっきり言って「繪服(絵服)」は誤字。

追記

2019年11月14日に、朝日新聞社並びに時事通信社へ誤字の指摘をしておきました。

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朝日新聞社へ送った内容

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時事通信社へ送った内容

*1:「繪(絵)」には下線を引いて区別しておく

*2:」は赤字にして区別しておく

*3:検索結果から該当部閲覧

*4:ジャパンナレッジ〈https://japanknowledge.com/〉より

*5:ジャパンナレッジ〈https://japanknowledge.com/〉より

*6:『全訳漢字海』第四版、三省堂、物書堂アプリ版より。引用部は一部省略がある。

*7:諸橋轍次(1967)『大漢和辞典』縮写版、巻八、大修館書店。引用部は一部省略等がある。

*8:『日本古典籍データセット』(国文研等所蔵)より。提供:

ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター / ROIS-DS Center for Open Data in the Humanities (CODH)

*9:だから、新字体は「曽」「層」「僧」などになった。